大学教職員のための
発達障害を持つ学生への理解と支援
-気づきと支援の工夫-
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発達障害は、個性が強い、得意なところと苦手なところがはっきりしているなど、発達の不均衡です。周囲の理解と配慮があれば、そのような特徴は素晴らしい長所として開花しますし、逆に理解がなければ不幸にも実力が発揮されません。これまで様々な領域で人類に素晴らしい貢献をした多くの人たちの中に発達障害の特徴が認められているという報告があります。そのような人たちは周囲がその人の特徴を理解し認めたからこそ、素晴らしい仕事を成し遂げられたのでしょう。正しい周囲の理解こそが、発達障害を持つ人には必要なのです。
大学に入学している学生の中にも発達障害のある人はいるのでしょうか?
います。発達障害の中には知的な障害が必ずしも認められないものもあります。例えば、
●広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群など)
社会性を欠いていると思われるような言動、独特なコミュニケーション、
こだわりなどの特徴がある
●注意欠陥?多動性障害(AD/HD)
多動、不注意、衝動性を特徴とする
●学習障害(LD)
知的な能力に比べて、計算?読み?書き、などある領域が極端に苦手を
特徴とする
これらの障害は重複することもあります。
平成17年4月に施行となった発達障害者支援法では「大学及び高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする」と定められています。しかし、大学での支援は不十分なのが現状です。また、既に入学している世代では、本人および家族が発達障害の診断を受け、支援を求めてくる学生はそれほど多くありません。様々な困難があっても、発達障害とは気づかなかったり、あまり大きなトラブルがおきず経過することもあります。
周囲はどんなことから広汎性発達障害ではないかと気づくのですか?
きまじめすぎる、マイペースさが目立つ、周囲から「空気が読めない」と指摘されるなどの社会性がないと受け取られるような言動。独特の言い回し、言いたいことがとらえがたい、抑揚のないしゃべり方をするなど、コミュニケーションの苦手さ。ことばを字義どおりうけとる、こだわりが目立つ、急な予定変更への対応が苦手、興味の幅がせまいなどの特性があります。また、視線が合いづらい、動作がぎこちない、音や光に敏感な例もあります。ストレスを溜め込んで突然の興奮や突発的な行動などのいわゆる“パニック”という形で表現されることも頻繁です。抑うつ、不安、強迫などの精神症状を伴っている場合もあります。不登校となりひきこもってしまう場合もあります。
広汎性発達障害のある学生はどんなことで困っているのですか?
前頁に示した特性から、新しい友人関係をうまく築けていない可能性があります。周囲にうまく溶けこめない感じから孤独感、自己否定感を強めているかもしれません。周囲から情報を得ることが少なかったり、適切な援助を求めることが苦手です。また、周囲とトラブルを起こしやすい学生もいます。
学業面で大きな困難を抱えている学生もいます。聴覚理解(耳で聞きとっての理解)が苦手、短時間にノートを取ることが苦手、レポート等の形式をうまくまとめられない学生もいます。
さらに、学年があがって研究室での生活が主体になると周囲の学生と協力し合って研究を進めることが難しい、思い込んだら研究の方向の修正が困難となる学生もいます。
大学生の生活は、履修登録をはじめとして自分で組み立てることが数多く要求され、それまでの生活様式とは大きく変わっています。また、親元を離れ単身生活をすることで、それまで生活に支障のなかった学生でも、大学生になって問題が表面化してくる場合があります。
広汎性発達障害のある学生への支援はどのようなことが考えられるでしょうか?
学生が何に困っているのか問題点を明らかにする必要があります。対人関係で困っている場合、学生の特性を理解し、何が対人関係を困難にしているのか、具体的な場面に沿いながら一つ一つ考えていくことが重要です。
記憶力は優れていても学習の方法(例えば、資料の集め方、まとめ方など)が理解できていない場合もあります。学業上の問題を抱えている場合は以下のような工夫が考えられます。
◎板書は図や矢印を使って流れを理解しやすくする。
◎修正個所を具体的に表記する。
◎抽象的な表現は避ける。
◎資料を配布する。
◎ノートの取り方を指導する。
◎デジタルカメラ、録音機の使用を認める。
◎レポートの書き方のフォーマットを配布する。
◎ノートテイカーや年長学生によるチューターを依頼する。
◎実験?実習時に、教員やチューターとペアを組むなど。
履修相談は、個別に早めに行うことが大切です。抽選に漏れることのない、優先的履修も有効かもしれません。
就職にあたっては、学生のニーズと学生の適性を考え、個別の就職支援が必要です。入学後早期より卒業後のことを見通して、進路の相談、職業体験などが有効と考えます。卒業後は大学での支援は難しいので、医療機関や発達障害者支援センターなど適切な相談機関に繋ぐことも重要です。
いずれにしても、その学生の特徴と、何が困難となっているのか、適切にアセスメントして有効な支援を検討していく必要があります。また、学生自身も、大学生活の中で何が困難になっているのか、どこからは支援を受けることが必要かなど、自己理解を深めていることも大切です。どのような支援が必要なのか学生と一緒に考えていくことが大切であることは言うまでもありません。
もし、広汎性発達障害があるのではと気がついた場合には、診断の有無にかかわらず、その特性に配慮した対応が重要です。その配慮を行うことによってマイナスに働くことはないからです。
周囲はどんなことから注意欠陥?多動性障害(AD/HD)ではないかと気づくのですか?
細かな作業を綿密に行うことが苦手、作業や会話に集中することが困難、実験や作業など指示や手順を遵守する必要がある作業を遂行することが困難などの不注意の状態が目立ちます。また、注意をしても真剣に聞いていないかのような態度であったり、同じようなミスを何回も繰り返すこともあります。
落ち着いて授業を聞けない、デスクワークが苦手などの落ち着きのなさ(多動性)が目立ちます。「一言多い」と言われるような言動や、失言など不適切な発言が目立つこともあります。
基本的には不注意?多動性?衝動性が認められますが、人によっては不注意がより目立つ場合、多動?衝動性がより目立つ場合など様々です。
注意欠陥?多動性障害(AD/HD)のある学生はどんなことで困っているのでしょうか?
忘れ物やなくし物が多い、スケジュール管理をすることが苦手で、期日までに課題を仕上げ所定の場所に提出するのが難しい、長時間座って授業を受けるのがつらい。ケアレスミスが目立つ、実験などで手順や注意事項の遵守ができない、書類整理などの細かな事務作業が苦手ですが、これらを注意されても同じミスをしてしまうことに学生自身も困っています。
これらのことは、一見誰でもあること、注意すればいいと思われがちですが、困っていることの程度が「誰でもあること」とは異なっています。学生本人の話し方に深刻味が感じられないこともあり、周囲の理解が得られないことも少なくありません。
注意欠陥?多動性障害(AD/HD)のある学生への支援はどのようなことが考えられますか?
学生を支援する人たちは、学生の特性、そしてそれらは通常の注意で改善が難しいこと、学生本人の努力不足ではないことを理解することです。
その上で、ノートの取り方、レポートの書き方等の個別指導が有効な場合もあります。
試験に集中しづらい場合、別室受験やレポート提出?試験時間の延長などの措置も有効です。
スケジュール管理法は学生に合う方法を見つけていくことが重要です。電子手帳などテクノロジーを駆使した工夫が有効かもしれません。
卒業後の進路選択は、学生本人の特性を生かした職業を探すことが重要です。ひらめきやアイデアの豊かな人が多いので、困難な事を修正しようとするより、長所を生かせる仕事を一緒に探していくことが大切だと思います。
学習障害のある学生はどんなことで困って、どのような支援が考えられますか?
学習障害のある学生は知的な問題ではなく、読み?書き?計算など特定の領域の課題遂行が困難です。例えば読みが苦手な学生は、資料や教科書を読みながら理解することが困難なだけではありません。大学生活は、掲示板や手引書を見て自分で対処しなければいけないことも多く、学業以外の生活でも必要な情報を得るのが困難です。読みが苦手でも聴覚の理解が苦手でない場合は、同じ情報を耳から聞くことで対処ができます。また、読みが苦手な場合でも、図表の多い資料は理解しやすいようです。
以上のように、学習障害の学生はある領域の苦手さがあり、苦手な点を補う支援を考える必要があります。他にも、デジタルカメラ、録音機器などの使用も有効かもしれません。ノートテイカーや年長学生によるチューターなども考えられます。また、試験時間の延長、課題提出の延長、提出方法の変更が有効な場合もあります。
その他に、発達障害のある学生の支援で知っておくべきことはありますか?
発達障害のある学生は、それぞれの障害の特性による、対人関係や、生活、学業上の困難があります。それに加えて、特性が目立たなかったり、これまでの生活で、問題や困難が目立たず、診断を受けていない学生も少なくありません。そのような学生の中には、自分の困難なことや周囲との違和感を強く感じ、自責感や劣等感を強く感じている場合もあります。さらに、これらの困難さを、養育環境、性格、経験不足などといわれ、深く傷ついている場合があります。また、幼少時より、ひどいいじめを受け、周囲に対し信頼感をもてなくなっている学生もいます。
以上のように、障害特有の困難さに加え、支援が適切でないことにより二次的な障害が引き起こされることがあります。様々な精神症状(抑うつ症状、パニック、引きこもり、食行動異常など)により、大学生活がより困難になることもあります。
就労支援はどのようなことが考えられますか?
学生自身が自分の特性を正しく理解し、どのような仕事がいいのか考えていくことが重要です。ただし、障害の理解や受容がなされていない学生や家族は、特性に応じた就労支援が困難になります。
一般的なキャリアカウンセリングに加えて、履歴書の書き方、面接の指導等、学生の特性に合わせた個別の支援が必要です。
また、理想と現実がかけ離れていたり、自分の能力の判断が適切にできない場合もあります。入学早期から就労支援を視野に入れ、インターンシップなどを通じて、就労に関する具体的な話し合いを繰り返すことも必要かもしれません。
さらに、求職の方法として、障害者手帳を取得し求職活動を行うか、障害者職業センター、ハローワークの専門援助部門を利用するかの検討も重要です。
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