臨床医学部門 寺石美香助教の論文が学際的電子ジャーナルScientific Reportsに掲載されました

公開日 2017年5月12日

 本学教育研究部医療学系臨床医学部門(皮膚科学)の寺石助教、佐野教授らの研究グループは、指定難病であるモワット?ウィルソン症候群の皮膚症状を世界初めて報告しました。原因遺伝子ZEB2が関係するコラーゲン線維の形成異常によりエーラス?ダンロス症候群に似た皮膚を呈し、モデルマウスの解析によって分子機構を明らかにしました。その研究成果は、2017年4月19日学際的電子ジャーナルScientific Reportsに掲載されました。


1.研究内容
<背景>
 モワット?ウィルソン症候群(MOWS)は、1998年にモワットとウィルソンによって報告され、1)重度知的障害、2)特徴的顔貌、3)小頭症、4)ヒルシュスプルング病(巨大結腸症)を特徴とする症候群です。全国に1000?1500人ほどの患者さんが推定されています。原因は、2番染色体にある両親のいずれか片方のアレルにおけるZEB2遺伝子の変異で、ZEB2タンパク質が作られなくなることが原因です。遺伝性ではなく、ご両親の配偶子(精子あるいは卵子)のどちらかのZEB2遺伝子に突然変異が起こり、患者さんが本症候群になったと考えられます。ZEB2は細胞の遊走に関連がある転写因子であり、このタンパク質の変異により神経や骨格などの発生異常がMOWSの症状に反映されていると考えられます。今回、新たにMOWSにおける皮膚症状を見いだしました。

<内容>
 日本国内における複数の施設で診察できたほとんどのMOWS患者さんの皮膚で、過伸展、関節の過屈曲、皮膚萎縮性瘢痕など、エーラス?ダンロス症候群に似た症状を確認しました。総じて真皮の菲薄化があり電顕で観察するとコラーゲン線維朿に異常が認められました。これを確認するために、ZEB2遺伝子を真皮などで欠損したマウス(ZEB2ノックアウトマウス)を作成したところ、それらにおいてMOWS患者同様、皮膚の過伸展、たるみ、菲薄化などが再現され、電顕所見も同様のコラーゲン線維の形成異常が酷似していました。なお、このノックアウトマウスでは顔面骨の形成異常も認められ、MOWS患者の症状を再現していました。このノックアウトマウス真皮から採取した培養線維芽細胞を用いて、マイクロアレイ解析を行った結果、コラーゲンなど細胞外マトリックス分子の遺伝子発現が低下、逆にそれらを分解するタンパク分解酵素の遺伝子発現が増加していました。この異常は、タンパクレベルでの解析でも確認しました。このマウスにおいては、ブレオマイシンによる真皮コラーゲン増生が起こりにくいことが明らかになり、ZEB2遺伝子は線維芽細胞からのコラーゲン合成能に重要な働きをしていることを裏付けました。

 

2.意義?将来展望
 本研究は、MOWSにおける皮膚症状を世界に先駆けて発見したものです。また原因遺伝子ZEB2のノックアウトマウスがMOWSの皮膚症状を再現し、真皮線維芽細胞の解析によりZEB2遺伝子欠失のためにコラーゲン生成に異常が生じることを解明できました。このように、本研究は、原因遺伝子から症状までをin vivoおよびin vitro解析で見事に明らかにしたトランスレーショナルリサーチです。MOWSは比較的稀な疾患ですが、神経や内臓病変とともに皮膚におよぶ症状とその病態が世界で初めて明らかにされたことにより、今後皮膚科の診療の対照になることで患者に対して適切な生活指導が可能になります。

 

3.発表雑誌/ウェブサイト
 論文名:  Critical involvement of ZEB2 in collagen fibrillogenesis: the molecular similarity between Mowat-Wilson syndrome and Ehlers-Danlos syndrome
 「ZEB2のコラーゲン線維形成に関わる重要な働き:モワット?ウィルソン症候群とエーラス?ダンロス症候群における分子機構の類似性」
 著者名: Mika Teraishi, Mikiro Takaishi, Kimiko Nakajima, Mitsunori Ikeda, Yujiro Higashi, Shinji Shimoda, Yoshinobu Asada, Atsushi Hijikata, Osamu Ohara, Yoko Hiraki, Seiji Mizuno, Toshiyuki Fukada, Takahisa    Furukawa, Nobuaki Wakamatsu, and Shigetoshi Sano
  発表誌:  Scientific Reports, APRIL 19, 2017

  Scientific Reports Website:https://www.nature.com/articles/srep46565

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