◆ 自然科学系農学部門の井原賢教授らの研究成果が「Environmental Science & Technology」誌に掲載されました

公開日 2025年1月6日

人に処方されるGPCR阻害薬が廃水を通して魚に与える影響について

 

 自然科学系農学部門の井原賢教授を責任著者とする研究グループ(188足球直播_篮球比分¥体育官网、京都大学、大連工科大学、Centre for Ecology and Hydrology、UK)の研究成果が「Environmental Science & Technology」誌に20241226日付で掲載されました。

 人が服用した医薬品は屎尿とともに下水処理場へ流入し、下水処理を経た後に河川等の水系へ放出されることが世界各地で明らかとなっています。人の処方医薬品の半数はGタンパク質共役型受容体(GPCR)を阻害するように作られています。代表的なGPCR阻害薬には高血圧治療薬、抗アレルギー薬、血管拡張剤、抗精神病薬があります。これらは神経細胞に作用するので、水生生物の繁殖や行動、環境応答の異常、水生生態系の破壊が懸念されています。井原賢教授はこれまでに下水を介して水環境に排出される神経細胞に作用する医薬品が生態系へ与える影響を明らかにする研究に取り組んでおり、下水や河川水から医薬品の活性が検出されることを世界に先駆けて明らかにしてきました。また、抗うつ薬が人のモノアミントランスポーターだけでなく魚(ゼブラフィッシュ)の受容体も阻害することを世界で初めて明らかにしています。

 今回の論文では、GPCR阻害薬の薬理活性を定量できる細胞試験を用いて、GPCR阻害薬が人だけでなく魚(ゼブラフィッシュ)のヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、ドーパミン受容体を阻害することを世界で初めて明らかにしました。さらに、同じ医薬品でも人とゼブラフィッシュのGPCRでは薬理活性の強さが異なることを示しました。生物種による薬理活性の違いがGPCRのアミノ酸配列の違いに起因することを分子ドッキングシュミレーション(※1)の活用によって明らかにしました。

 また、30種類のGPCR阻害薬の薬理活性を測定し、活性の強さを順位付けすることに成功しました。そして、日本とイギリスそれぞれにおいて使用量の多い抗うつ薬を調べ、薬理活性の強さと下水放流水中の濃度の高さ、水生生態系保護の視点から、特に注目して研究すべきGPCR阻害薬をリストアップしました。その結果、環境を汚染する医薬品の魚への影響を評価するには人のGPCRではなくゼブラフィッシュのGPCRに対する薬理活性の強さに基づいて評価すべきであることを明らかにしました。日本とイギリスの下水処理場調査を実施し、両国における下水中の抗うつ薬の存在実態の違いも明らかにしています。

 これらの研究成果は、水生生態系保護の視点から、さらなる実態の調査やin vivo(※2)での毒性試験の実施につながります。

 

論文タイトル:Using Zebrafish G Protein-Coupled Receptors to Obtain a Better Appreciation of the Impact of Pharmaceuticals in Wastewater to Fish

著者:Han Zhang, Mingyuan Cao, Mariko O. Ihara, Monika D. Jürgens, Andrew C. Johnson, Jingwen Chen, Hiroaki Tanaka, Masaru Ihara

雑誌名:Environmental Science & Technology (2024)

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.4c07657

 

※1分子ドッキングシュミレーション:薬品やタンパク質等の相互作用をシミュレーションする手法

※2in vivo:試験管や培養器等の中で、人や動物の組織を用いて体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の反応を検出する試験のこと

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