分子生物学教室

研究内容 ‐樋口、坂本‐

1.細胞腫瘍化に関与する新たなマイクロRNA産生制御機構

  これまでの我々の解析及び他の研究グループらの報告より、NF90及びNF90-NF45は、肝細胞がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、乳がんのがん部で発 現が高いことが明らかとなっている。また、肝細胞がん、子宮頸がん由来の細胞株を用いた解析により、NF90-NF45はがん細胞の増殖に促進的に作用す ることが見出されている。miRNAとがんとの関連に関しては、様々なタイプのがんにおいて、多くのmiRNAの発現が低下しており、当該miRNAは正 常組織ではがん抑制因子として機能していると考えられている (Li et al. Nature 2005)。前述のように、過剰発現したNF90-NF45はpri-miRNAのプロセッシングを抑制することで、miRNA生合成を負に制御する。 従ってこれらの知見より我々は、がん部において発現増加したNF90-NF45は、がん抑制miRNAの産生を負に制御することにより、細胞腫瘍化に促進 しているのではないかと作業仮説を立て、その検証を行っている。

 これまでに本課題に関しては、肝細胞がんを対象にIn vitroで解析を進め、以下のことを明らかにした。

・肝がん細胞株において、NF90-NF45はがん抑制miRNAであるmiR-7の産生を負に制御する。
・NF90-NF45のノックダウン(KD)により、miR-7の標的である上皮成長因子受容体(EGFR)の発現が低下する。
・NF90-NF45のKDにより、EGFRからの細胞内シグナル伝達の下流に位置するAktのリン酸化が抑制される。
・NF90もしくはNF45 KD肝がん細胞株は増殖が抑制される。

 これらの知見より、肝細胞で発現増加したNF90-NF45は、がん抑制miR-7の生合成を負に制御し、その結果、miR-7の標的であるEGFRの 発現が増加し、EGFRの下流の細胞内シグナル伝達が活性化し、がん細胞の増殖が促進するのではないかと考えられた (図2) (Higuchi et al. JBC 2016)。