研究内容 ‐坂本 (共同研究者 戸高先生)‐
2.マイクロRNAの生合成制御を介した新たな筋成熟機構がん細胞株を用いたIn vitroの解析により、NF90-NF45の発現亢進によるがん化促進は、高発現したNF90-NF45が、がん抑制miRNAの産生を負に制御することに一因があることが分かってきた (Higuchi et al. JBC 2016)。そこで我々は、このことをIn vivoで 検証することを目的に、全身でNF90-NF45を過剰発現する遺伝子改変マウス(NF90-NF45 double-transgenic mice: NF90-NF45 db-Tg mice)を作製し、主要組織におけるがん発生の有無を検証することとした。しかしながらNF90-NF45 db-Tg miceにおけるNF90-NF45の発現亢進は、骨格筋、心臓、眼球、肺で確認されたのみであった。これまでの報告で、肺に関しては手術標本を用いた発 現解析により、がん部でNF90の発現亢進が確認されている (Guo et al. Clin Cancer Res 2008)。そこで現在、NF90-NF45 db-Tg miceの肺における腫瘍形成の有無を組織学的に検証している。一方で、NF90-NF45 db-Tg miceにおいては、以下の顕著な表現型が確認された。
・NF90-NF45 db-Tg miceは、野生型と比較し、体が小さい。
・NF90-NF45 db-Tg miceは、野生型と比較し、骨格筋量が低下している。
・NF90-NF45 db-Tg miceの骨格筋においては核が中心に局在する筋組織(中心核)が多く存在する。一般に成熟した筋組織は核が辺縁に局在するのに対し、未成熟な筋組織では中心核となる。
近年、筋分化には多くのmiRNAが関与していることが報告されている。加えて上述のように、NF90-NF45はmiRNA生合成に対し抑制的に機能することが知られている(Sakamoto et al. MCB 2009)。従ってこの知見と上記の表現型より我々は、高発現したNF90-NF45はmiRNAの生合成を負に制御することにより、筋成熟を抑制しているのではないかと作業仮説を立てた。その検証を進めた結果、下記のことが明らかとなった。
・ NF90-NF45 db-Tg miceの骨格筋においては、筋分化関連miRNAの産生が低下している。一方、当該miRNAの初期転写産物であるpri-miRNAの発現量は、増加 している。このことは骨格筋において過剰発現したNF90-NF45が筋分化関連miRNAの初期転写産物のプロセッシングを抑制していることを示してい る。
・ NF90-NF45によって産生が抑制される筋分化関連miRNAは、筋疾患(中心核病、先天性ミオパチー)の原因遺伝子を標的とすることが報告されてい る。予測通り、NF90-NF45 db-Tg miceの骨格筋において当該原因遺伝子の発現が増加していることが分かった。
これらの知見より、骨格筋において発現増加したNF90-NF45は、筋分化関連miRNAの生合成を負に制御し、その結果、当該miRNAの標的であ る筋疾患(中心核病、先天性ミオパチー) の原因遺伝子の発現が増加することで、筋成熟を抑制するのではないかと考えられた (図3) (Todaka et al. MCB 2015)。