腹腔鏡下手術
腹腔鏡下手術とは
腹部に1cm程度の小さな穿刺創を3~4カ所おき,炭酸ガスを腹腔内に注入し、穿刺創から内視鏡を挿入して手術を行う方法です。本術式には高度の手術技術が要求されますが、従来のお腹を切る開放手術に比べて、手術創が小さいことから術後の回復が早く、術後の痛みが極めて少なく、短期間のうちに入院治療を終えることができることがこの手術の長所です。日本では1990年頃から主に外科領域にて胆嚢結石に対して行われていましたが、最近では泌尿器科領域でも盛んに行われるようになり、副腎腫瘍に対する副腎摘除術、腎腫瘍を含む種々の腎疾患に対する腎摘除術などはよい適応といえます。
さらには悪性疾患のみならず腎盂尿管移行部狭窄に対する腎盂形成術や女性の骨盤臓器脱に対する仙骨膣固定術など良性疾患に対しても腹腔鏡手術は積極的に行われるようになっており、泌尿器科領域での手術において中心的な役割を担っている分野になっています。
副腎疾患に対する腹腔鏡下手術
副腎は腎臓の上にある小さな臓器で、生命維持に必要な種々のホルモンを産生している大切な臓器です。この副腎に癌が発生することは稀ですが、良性とはいえ副腎の腫瘍には、褐色細胞腫などのホルモン産生腫瘍もあり、放置しておくと時には死に至ることもある臨床上重要な疾患です。腫瘍が異常にホルモンを作っているか否か、またその大きさによって、正確な診断をおこなうことが必要で、手術で腫瘍を摘出すれば、高血圧、精神不隠などの症状が劇的に改善する疾患でもあります。以前は、側腹部や背中を大きく切開して腫瘍を摘出する方法が行われていましたが、最近では腹腔鏡下手術の良い適応とされています。
腎疾患に対する後腹膜鏡下手術
近年、人間ドックなどで超音波検査を行う機会が増え、初期の腎臓癌が偶然見つかることが多くなりました。腎臓癌は、薬だけで治療することは今の医学では不可能で、手術で取るのが治療の原則です。しかし腎臓は身体の深いところにあるので、途中で邪魔になる筋肉も切断し、手術の傷もかなり大きくなります。その点、腹腔鏡下手術だと、いくつかの穴から器具を入れて手術が出来ますので、皮膚を切るのは腎臓をとりだすのに必要な最小限の大きさだけになります。さらに当院では、腎摘除術は腹腔内に入らずに後腹膜腔での腎摘除術を行っており、これにより術後の痛みがさらに軽減され、患者さんに喜ばれています。さらに、標準的な腎摘出だけでなく腎機能温存手術としての腎部分切除術にも腹腔鏡下手術を導入し、患者さんの Quality of Life (QOL) を追求しています。
(現在は腎部分切除術に関してはロボット支援手術が保険適応になっており、より精度の高い腹腔鏡下手術を行えるようになっています。)
腎盂尿管腫瘍に対する腹腔鏡下手術
腎臓で作られた尿は腎盂、尿管を通って膀胱に流れていきます。この尿の通り道を腎盂、尿管(上部尿路)と言います。この部分にも膀胱癌と同じ癌(尿路上皮癌)が発生することがあります。その他の部分に転移がなければ手術が適応となります。その際に行う術式は腎尿管全摘除術と言われ、腎臓と尿管を全て摘出する方法が標準術式となります。
腎全摘除術と同様に、この手術に対しても腹腔鏡下手術が中心的な手術方法となります。単純な腎全摘除術と異なることは、尿管も一緒に摘出しないといけませんので、腹腔鏡手術下で腎臓を完全に遊離した後に、下腹部に10~15cm程度の皮膚切開をおいて、下部尿管を膀胱から切り離して、腎臓と尿管を一塊にして摘出します。摘出する臓器が大きいものとなりますので、開腹手術で行うと、大きな手術傷になりますが、腹腔鏡下手術を併用することにより傷が小さくなり、術後の痛みが軽減され、早期の回復が可能となります。
前立腺悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術
前立腺に限局した癌に対する手術療法です。 従来の開腹術と同様に、前立腺ならびに精嚢腺を摘出し、尿道と膀胱を再吻合する手技を腹腔鏡下に行います。 開放術に比べて、傷が小さく、身体の回復が早い、出血量が少ない、などの利点があります。 本術式は、腹腔鏡手術の技量、経験などの一定基準を満たした施設のみに保険認可された手術です。 当科では、2011年8月には本術式の保険適応の施設認定を取得しました。 当院で本術式を受けられる方は保険診療として入院加療を受けることが出来ます。
(現在はロボット支援手術が保険適応になっており、ロボットを用いて、より精度の高い腹腔鏡下手術を行えるようになっています。)
膀胱悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術
膀胱に限局した癌に対する手術療法です。 従来の開腹術と同様に、膀胱を(男子の場合には前立腺や精嚢腺も)摘出する手技を腹腔鏡下に行います。 その後の尿路変更は、回腸導管や新膀胱を体外で作成した後、再度腹腔鏡下に体内に配置、固定します。 開放術に比べて、傷が小さく、身体の回復が早い、出血量が少ない、などの利点があります。 本術式は、2011年10月1日より第2項先進医療として承認、2012年4月1日よりは保険診療として実施しています。(本手術も腎臓や前立腺と同様に現在はロボット支援手術が保険適応になっており、より精度の高い腹腔鏡下手術が行えるようになっています。)
骨盤臓器脱に対する腹腔鏡下手術
中高年の女性に発症する特有の病気で骨盤臓器脱というものがあります。本来骨盤内におさまっている臓器(子宮、膀胱、直腸など)が垂れ下がってしまい、股から飛び出してくる状態を言います。その原因として、それら臓器を支える骨盤の底にある筋肉(骨盤底筋群)の衰えがあげられます。特にお腹に力が入った時(立ち上がった時、咳やくしゃみをした時)に顕著に現れるのが特徴の1つです。この病気では「股に何かモノが挟まっているようだ」という症状に加え、頻尿や排尿障害、便秘といった症状が合併することもあります。近年、この病気に対して腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)という新しい手術は行えるようになりました。腹腔鏡で、膣の前面と後面に人工のメッシュを固定し、そのメッシュを引き上げて仙骨(お腰の骨)に固定し、垂れ下がらないようにするという方法です。骨盤の底というなかなか手が届かない非常に深い部分で手術操作をしなければならないため、お腹を切って手術するとかなり大きな傷ができてしまうのですが、腹腔鏡で行うことにより、5mm~1.5cm程度の小さな穴を数か所に開けるだけでできるようになりました。腹腔鏡手術なので負担が少なく、術後の回復はとてもスムーズです。また、術後再発率が低く治癒率が高い手術であり、メッシュを入れることによって起こる合併症のリスクも他の術式に比べて低いと言われています。