Case.06
皮膚科医1年目に、先天性表皮水疱症の電顕による診断を任され、はじめて電顕の世界をみたとき、その微細構造の美しさに魅せられたことが私の研究との出会いでした。見えている世界の水面下の見えない部分の真理を知りたいと思うようになりました。臨床の世界は患者さんの病気を診断し、治療していくことの連続ですが、病態はまだまだわかっていないことが多く、その病態の新しい側面を自分の手で明らかにしたいと思うようになりました。
サイエンスというのは、深い海の深淵のようなものだと感じています。実験の結果は思いどおりにいかないことの方が多いですが、時には、きれいな結果が出ることがあり、この時の嬉しさは言葉では表現できません。自分の力でサイエンスの扉を開けたと感じる瞬間です。その結果をどのようにFigureを並べるか(論文作成)を考えながら実験を進めていきますが、最後には、ヒトのサンプルを用いた結果を出せるように努めます。Bench to Bedの研究に魅力を感じています。そして、サイエンスは年齢、性別、地域を越えて共通に平等に人を育てると思っています。
研究は、皮膚疾患の病態の解明、免疫の仕事をしています。私は臨床医なので、週のうち3日は診療をしていますが、午後2時頃には診療を終え、実験やサンプル解析、Figureの作成をし、実験のための論文を読みます。教育のための時間も十分とるように心がけています。そのほかの雑用もありますが、雑用に押しつぶされないよう、いかに効率よくこなすかをいつも考えています。スケジュール表は必須で、その月に、その週に、その日にすべきことを書き出し、時間配分していきます。すきま時間にいかに箇条書きにした仕事ができるかが肝要です。子供がいるので、家事育児の時間を確保しなくてはいけませんが、仕事のストレスは家事育児で、家事育児のストレスは仕事で発散しています。
皮膚の表皮中にランゲルハンス細胞という細胞がいます。この細胞は、外界の異物を抗原として認識して、その情報をリンパ節に伝えて免疫を動かします。乾癬という皮膚の病気がありますが、乾癬の病態におけるランゲルハンス細胞の役割はまだわかっていません。私は、さまざまなマウスを使った実験をして、ランゲルハンス細胞が乾癬の病態形成に関与していることを明らかにしました(K.Nakajima, et al. J.Immunol 2011, J.Invest Dermatol 2013, J.Dermatol Sci,2018)。そして、ランゲルハンス細胞はIL-23というサイトカインを出して、乾癬の病態を作っていることがわかりました。
研究をすることで生きている世界が広がります。日常、目にみえている世界以外に深い所に、遠い所にサイエンスがあります。自分で手を動かすことで深いサイエンスの世界を知ることができます。論文を読めば、遠くに住んでいる外国の人がいろいろな研究をして様々な考えを持っていることがわかります。学会に行けば、いろいろなヒトと話ができます。国際学会に行けば研究が言葉の壁を簡単に乗り越えてくれることがわかります。医学部生には、長い人生、1度は研究に携わり、臨床の力量を高めるよう話します。
臨床、研究、教育に従事する時間を大切にしています。臨床でわからなかったことを調べたり、研究のための論文を読む時間を中でも大切にしています。実験は、どんな簡単なことでも集中していないと失敗するので、いいconditionで臨めるように心がけています。
家族との対話の時間も大切にしています。子供は18才になったら巣立ってしまうので、大切に育てたいと思っています。オンオフの時間のけじめも大切で、音楽を聞いたり、本を読む時間が至福の時です。
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