Case.08
中高生の時は音楽の道に進もうと考えていましたが、評価のわかりにくい世界への戸惑いもありました。そんな時メンデルの遺伝の法則を知り「複雑に見える生命がこんな単純な原理に支配されているとは!」という新鮮な驚きから、生命科学を学びたいと思いました。研究者になるとは思いませんでしたが、歴史上の研究者が科学に情熱を注ぎ、世界を変える様を本で読み、私も彼らが魅了された世界の一端を垣間見るまでは自然科学と対峙したいと思い続けてきました。
たとえ困難があろうとも、自然科学には必ず真理がある点が最大の魅力だと思います。研究を始めた当初は、先人の偉大な功績を前にして圧倒され「本当に新しい原理など見いだせるのか?」と不安になりましたが、紆余曲折を経て人類の知の最前線に到達すると、これまでの知見にとらわれずに自由な発想で研究を進められるようになり、一気に研究が楽しくなりました。
私は地球深部に生息する微生物群を研究しています。世界中の色々な場所でキャンプをしたり、洞窟へ入ったり、船に乗ったりしながら微生物サンプルを採取し、まるで冒険のようです。2年前には2か月ほど米国の掘削船「ジョイデス・レゾリューション」に乗り、マリアナ海溝付近を掘削する国際プロジェクトに参加しました。家族が恋しいこともありましたが、充実した時間でもありました。研究者という職業は、研究の設計、予算獲得、実験、論文執筆、各種学会発表のみならず、国際共同研究の施行、研究者以外の方への講演や執筆、取材対応、各種委員会への参加などその仕事は多岐に渡り、多様な能力が求められます。
地球には超高温、強酸性・強アルカリ性など生命にとって苛酷とも思える極限環境が存在しますが、そこにも微生物は生息しています。これは約40億年前、地球に生命が誕生した後、環境の劇的変遷にさらされてもなお生命が柔軟に環境適応し、多様性を創り出してきた結果です。私はそれら極限環境に生きる微生物の生き様から、生命とは何か、進化適応とは何か、地球にはなぜ多様な生命が存在するのか、といった疑問の解明に挑んでいます。
人類の知の拡大が自然科学を志す研究者の仕事です。研究者を目指す場合、その道のりは時に容易ではないと感じるかもしれませんが、真理の解明を目指し、失敗を恐れずに挑戦的研究に取り組み続けることこそが近道だと思います。「教科書を信じるな」というノーベル賞学者・本庶教授の言葉は少々過激ですが、多くの人が目にする自然現象を前にして、「自分なら埋もれている真実を見出だせる」という気迫、自信は必要だと思います。
娘2人(7歳と3歳)との時間は何より楽しいです。おしゃべりな娘たちと車内や食事の時間にその日一日に起きたことなどを話していると、ついつい盛り上がって、時間を忘れてしまいます。あとは、子供が寝た後の自由時間です。仕事や家事をすることも少なくありませんが、極力小説を読んだり、テレビを見たり、音楽を聴いたりして、研究者としての自分を解放し、個としての自分を楽しむようにしています。
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