研究室紹介
昭和54年に創設された薬理学教室は、平成25年4月より鳥取大学から3代目教授として齊藤源顕教授を迎え、「常に高い向上心?幅広い能力と知識?hard working」を合言葉に薬理学教室の重要な使命である薬理学教育ならびに薬理学研究に取り組んでいます。
薬理学教育では、臨床教育に入る時期の学生にCBTと医師国家試験を意識しながら薬理学の基礎的概念ならびにその応用を分かり易く体系的に教育することを目指しています。
また薬理学研究では、教員それぞれの専門分野で研究グループを作りながら積極的に国内外の研究者らと共同研究を行う一方で、高知発世界初の研究成果を目指して研究活動を行っております。
1)虚血により誘導される下部尿路症状 (排尿筋過活動、前立腺肥大、排尿筋低活動)、性機能障害、造精機能障害の発症機序解明並びに新規治療薬開発に向けた基盤研究を行っている (Saito M et al. Neurourol Urodyn 2012, Saito M et al. Sci Rep 2014, Shimizu S et al. Int J Urol 2014, Shimizu S et al. Int J Urol 2016, Shimizu S et al. Eur J Pharmacol 2020, Shimizu S et al. Life Sci 2021a, 2021b, Shimizu S et al. Eur J Pharmacol 2022.)。
さらに、高血圧に伴う頻尿における脳内機序解明および新規治療薬開発に向けた基盤研究を行っている (Kawamoto B et al. Sci Rep 2016, Shimizu S et al. Br J Pharmacol 2018, Shimizu S et al. Neurourol Urodyn 2019)。
また、ストレスや緊張によって頻尿になることが知られているが、ストレスを受容する中枢神経系が頻尿を惹起する詳細な機序は明らかになっていない。そこで、ストレス反応により誘導される脳内神経伝達物質が排尿反射に与える影響及びその分子機構について研究を進めている (Shimizu T et al. J Pharmacol Exp Ther 2016, Shimizu T et al. Br J Pharmacol 2017, Shimizu Y et al., Biochem Biophy Res Commun 2021, Hata Y et al. Biochem Biophy Res Commun 2022) 。
2)中枢神経系細胞、特にグリア細胞の脳疾患後遺症への関与について個体ならびに分子レベルで詳細に解明し、さらに解明した分子機構や活性化因子などを応用することで後遺症の克服を目指した新規治療法並びに治療薬の開発を行っている (Higashi Y et al. Sci Rep 2017, Aratake T et al. Metallomics 2018, Ueba Y et al. Biochem Biophys Res Commun 2018)。
3)ストレス曝露に対する生体反応(ストレス反応)はストレス適応に必須であるが、過剰?異常な反応は恒常性維持機構の破綻から高血圧症、消化性潰瘍等各種疾患の惹起?増悪に関与する。また、ストレス曝露により健常人では一時的な頻尿をきたす一方、膀胱機能障害患者においては頻尿症状の増悪が誘発される。ストレス曝露による上記疾患?症状の発症?増悪に対する現行の治療は末梢組織を標的とするものが主流であるが、奏功率は決して高くはなく、「根本的な」治療戦略の構築が必要である。我々は新たな治療標的としてストレスを受容する脳に着目し、治療戦略構築の基盤となるストレス反応の脳内制御機構を解析している(Nakamura K et al. Sci Rep 2014; Higashi Y et al. Br J Pharmacol 2018)。
4)アルツハイマー病は寿命の延長に伴い年々増加しているが、アミロイドβを分解する治療薬 は存在しない。現在、使用されている治療薬も多くは進行を遅らせる対処療法薬であり、アミロイドβを直接分解する根本的な治療薬となり得る化合物は見当たらない。現代の酵素科学の常識から逸脱した加水分解酵素活性を有する短鎖合成ペプチドを発見し、その総称としてCatalytide (Catalytic peptide)を提唱している。驚くべきことに、 Catalytideは結晶性の個体と可溶性のアミロイドβを加水分解することが判明し、沖縄科学技術大学院大学より日米に特許申請を行った。Catalytideは、現在使用あるいは開発中の治療薬とは全く異なった新規ストラテジー(加水分解)によるアルツハイマー病の根本的な治療薬となり得ることが予想されることより、その臨床応用を目指している(Nakamura R et al. Peptides 2019, Nakamura R et al. Integrative Molecular Medicine 2019, Nakamura R et al. J Royal Sci 2019)。