当教室では社会環境の変化や生活習慣の変化に対応した寄生虫症の研究を行っている。それらの主な概要は以下のとおりである。
1)リーシュマニア症に関する研究
リーシュマニア症はWHOの8大重要疾患の1つで、世界ではアジア、アフリカ、中南米地域を中心に広く分布しており、約3億6000万人が感染の危険にさらされている。当教室では1986年以来、文部科学省科学研究費(国際学術研究および基盤研究(A))の援助を受け、「中南米におけるリ-シュマニア症とその伝播に関する研究(代表研究者:橋口義久)」と題して継続的に研究を実施してきた(2011年度からは中南米型リ?シュマニア症の病態生理と分子伝播疫学)。本研究プロジェクトの方針は、常に国内外の多くの専門家による研究組織を編成し、リーシュマニア症という1つの寄生虫病を基礎および臨床の多方面から解析しようとするものである。これまでに取り組んできた研究分野は、疫学(流行地での住民、媒介者、保虫宿主の調査)、分子疫学、分子診断、治療薬の検討、免疫病理、動物モデルを用いた種々の実験的解析など多岐にわたっている。一方、流行地住民の苦痛軽減や二次感染防止のためには、分子生物学的な手法を駆使した簡便で便利な迅速診断法の開発や、安全で安価な治療薬の検討、開発(確立)等々が急務である。これらの研究は、橋口義久名誉教授を中心に、アルゼンチン?サルタ大学のDr.D.Marcoらとの共同研究が推進されている。
2)寄生虫感染における生体防御反応の解析
寄生虫に対する宿主の生体防御反応を解明する目的で、動物モデルを用いて旋毛虫や糞線虫、糸状虫による感染実験を行っている。旋毛虫感染実験では線虫感染防御に重要な働きを持つヘルパ-T細胞(Th2)の機能をIL-3が増強する事実を見い出している。さらに、nuclear factor-κB-inducing kinase遺伝子のpoint mutationによって、全身のリンパ節とパイエル板が欠損するalyマウスを用い、旋毛虫に対する感染防御反応についても解析中である。糞線虫感染モデルではTh2応答とケモカインの関連を研究している。また、イタリア?ピサ大学Dr.F.Bruschiと共に寄生虫感染における免疫応答特に好酸球に関する研究を共同で行っている。
3)宿主寄生体関係の解析及び分子疫学的研究
新大陸や旧大陸のリーシュマニア症患者から分離した原虫についてgenotype解析するとともに、in vivo や in vitroでの病原性や薬剤感受性についても解析中である。その他、高知県産イノシシに寄生するドロレス顎口虫、海産魚に寄生するアニサキス幼虫についても研究している。
4)寄生虫症を疑う症例の検査依頼への対応
「寄生虫病は少なくなった」といわれる昨今であるが、自然食品ブームや海外旅行者の増加にともない、学内外から持ち込まれる検査依頼は増加傾向にある。なかには、海外での感染によるいわゆる輸入熱帯熱マラリアや、国内感染の赤痢アメーバによる肝膿瘍の症例など、極めて重篤な経過をたどるケースもみられ、適切かつ迅速な対応が迫られる。また最近問題となっている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)のベクターであるマダニや、お好み焼粉に混入し、アナフィラキシーを起こすコナダニの同定などを行っている(森本徳仁教授(高知学園大学)、荒川良名誉教授(本学農林海洋科学部)との共同研究)。