各科の一般的、先進的な治療?手術など
一般的治療
診療科(部)名 | 消化器内科?光学医療診療部 |
手術?治療名 | 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) |
対象となるがん病名 | 早期食道がん 早期胃がん 早期大腸がん |
■ 早期食道がん
食道がんは進行すると、食事のつかえや胸の奥の痛み等の症状が出現しますが、早期の状態ではほとんどが無症状で内視鏡検査のとき偶然発見されることが多い病気です。 進行食道癌の治療は、手術、抗癌剤、放射線治療等を組み合わせて治療を行いますが、手術の侵襲性は大きくまた必ずしも満足のいく成績とはならないこともあり、出来る限りの早期発見?早期治療が望まれます。早期の状態で見つかれば内視鏡治療の適応となることも多く、当院でも良好な成績を収めています。食道がんは、飲酒が多い方(特に飲んだ後に顔が赤くなる人)、喫煙者、咽頭?喉頭?口腔癌にかかったことのある方などがなりやすいため、心当たりのある方は症状が無いうちに内視鏡検査を受けるように心がけて下さい。
■ 早期胃がん
近年胃がんは減少傾向ですが、それでも罹患率では男性で1位の悪性腫瘍です。早期胃がんはほとんど症状が無く、検診や内視鏡検査で偶然見つかることが多い病気です。胃がんのリスクとしては、慢性胃炎(ヘリコバクターピロリ菌の感染)、高塩分食、喫煙、遺伝等が指摘されています。検診でピロリ菌が陽性、または慢性胃炎が指摘されましたら、まず一度内視鏡検査を受けることをお勧めします。痛みや食欲不振、体重減少などの症状は進行してから出てくる症状なので、症状が無いからと言って安心せず内視鏡検査を受けるようにして下さい。当院では内視鏡が苦手な方でも比較的楽に検査できる経鼻内視鏡も用意しております。
■ 早期大腸がん
大腸がんも食生活の欧米化に伴い近年増加傾向のがんです。他の消化器がん同様、早期であればほとんど無症状です。早期発見のためにはやはり大腸内視鏡検査が必要で、偶然にポリープなどが見つかることが多いです。通常のサイズの大腸ポリープであれば、従来から行われているポリペクトミー(粘膜から隆起したものに対してスネア(細い針金)で縛って焼き切る)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)(生理食塩水を粘膜に注射して盛り上げてからスネアで焼き切る)を外来で行うことが出来ます。
※ 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD: Endoscopic Submucosal Dissection)について
早期がんに対する内視鏡的治療は、1960年代に早期胃がんに対してポリペクトミー(粘膜から隆起したものに対してスネアで縛って焼き切る)が開発され、その後、内視鏡的粘膜切除術(EMR)(生理食塩水を粘膜に注射して盛り上げてからスネアで焼き切る)が開発されました。これらの治療法は小型の胃がんであれば比較的簡便に、安全に行われてきましたが、大き目のサイズになると取り残しによる再発の問題、部位によっては技術的に切除ができない等の問題がありました。これらの問題点を解決するために考案された治療法がESDです。当初ESDは胃がんに対する内視鏡治療として開発され、2006年4月に胃?十二指腸の早期悪性腫瘍に対して保険収載となりました。その間も処置具の改良?開発が行われ、技術的にも安定してきたため、2008年には早期食道がんに対して保険収載され、2012年4月には大腸腫瘍に対しても保険収載されています。ESDは、技術的難易度が非常に高い手技ですが、当院では十分に訓練をうけた医師が行うことにより良好な成績を収めています。
※ ESDの適応となる病変
適応の原則は、食道、胃、大腸で異なりますが、基本的には、がんが粘膜の表面にとどまり、リンパ節転移の可能性が限りなく低いことと、技術的に一括切除ができるということを満たす悪性腫瘍ということになります。食道では、周在性が2/3周を超える上皮内がんもしくは粘膜固有層までの浸潤にとどまるがん、胃では、大きさが2cm以上で病理組織型が分化型、潰瘍所見がない粘膜がんと3cm以下の分化型で潰瘍所見のある粘膜がん、大腸では、2cm以上の粘膜がんもしくは粘膜下層軽度浸潤がん、などがよい適応となります。ただし、これらの適応病変におけるESDでの長期成績はまだまだ不十分であるため、本当にリンパ節郭清を含めた外科的切除をせずに局所だけの切除で大丈夫なのかについての結論はでていません。そのため切除後には病理の専門医がそのがんの分化度、大きさ、深さなど細かく評価して、各臓器の治療ガイドラインに準じて追加治療の必要性がないかについて検討します。
※ ESD(Endoscopic Submucosal Dissection、内視鏡的粘膜下層剥離術)
ESDは、内視鏡的に使用可能な高周波メスを使って、周囲粘膜に切れ込みを入れて、粘膜下層の深さで病変を剥がし病変を切除する手技です。切除範囲を思い通りに決める(狙った範囲を正確に切り取る)ことができ、大型の病変、潰瘍を伴う病変、切除が難しい部位にある病変なども切除ができるようになり、これまで外科的切除が行われていたものでも内視鏡治療だけで治癒が期待出来るケースが増えています。切除に要する時間はおよそ1時間で、病変によっては5時間以上かかることもありますので、食道や胃の場合は、静脈麻酔を使って治療します。治療に際しては、約1週間~10日の入院が必要となります。術中?術後の主な偶発症は出血や穿孔です。術中の出血はほぼ100%見られますが、ほとんどの場合その場で止血可能です。術中の穿孔は数%の方に見られますが、ほとんどの場合、穿孔部位をクリップ(ホッチキスみたいなもの)で縫い寄せることで大丈夫です。治療後に遅れて出血する方が数%、治療後に遅れて穿孔する方が稀にいます。いずれの偶発症も、輸血をしたり緊急手術を要するほど、重篤になることは近年少なくなりましたが、これらの可能性がある治療であることを御理解いただく必要があります。