各科の一般的、先進的な治療?手術など
臨床研究
診療科(部)名 | 脳神経外科 |
手術?治療名 | #1 再発悪性神経膠腫に対するWT1ペプチドを用いた癌ワクチン療法の第I/II相臨床試験 #2 初発悪性神経膠腫に対する手術、術後放射線治療およびTemozolomide併用の標準治療と、それにWT1-W10ペプチド癌ワクチン療法を加えた併用療法を比較する第I/II相臨床試験 |
対象となるがん病名 | #1 再発悪性神経膠腫 #2 初発悪性神経膠腫 |
脳に原発する腫瘍(原発性脳腫瘍)の発生頻度は年間10万人あたり10数人ですが、その1/4強が神経膠腫にあたります。神経膠腫は病理学的悪性度からGrade1から4の4段階に分類されます。そのうち最悪性のGrade4 (神経膠芽腫といわれる)が1/3を占めますが、その5年生存率は10%を下回ります。今回の臨床試験はそのGrade4と、Grade3を含めて総称される、「悪性神経膠腫」を対象とするものです。
悪性神経膠腫の治療成績は、種々の研究に関わらず、数十年間目立った進歩がない状況でした。現在では可及的摘出術と、それに続く放射線治療、さらに数年前に認可された経口アルキル化剤(抗がん剤)のTemozolomideを併用する方法が標準治療となっています。他に免疫療法としてインターフェロンなども用いられます。しかし神経膠芽腫におけるこの標準治療の、従来の治療に対する延命効果は2,3か月にすぎず、依然として、より効果的な治療法が必要とされる状況に変わりはありません。
現在まで、遺伝子治療などを含めて様々な研究がなされていますが、その中でここ数年注目される治療法として、「ペプチドを用いた癌ワクチン療法」があります。人間の血液中のリンパ球には、細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocytes, CTLs)といって、人体にとって不都合なものを攻撃するリンパ球があります。このCTLsは癌の場合には、癌組織に発現されている特定のタンパク質のもとになっている「ペプチド」というアミノ酸の集まりを認識して(これを抗原として認識するといいます)、これを攻撃対象として覚え込み、この抗原つまり「ペプチド」を持つ細胞、つまり癌細胞を集中して攻撃、死滅させる役割をします。ですから、ある人の癌に、確実に発現されている特定のペプチドがあれば、それを人工的に作って体にワクチンとして接種します。すると、そのペプチドを攻撃対象とするCTLsが大量に体の中で作られ、それがその人の癌細胞を攻撃することになるというのがペプチドワクチン療法のシナリオです。
ヒトの多くの癌や肉腫において、「WT1」という遺伝子およびタンパクが非常に高頻度で多く発現されていることがわかってきており、大阪大学にて「WT1ペプチドワクチン療法」が行われ始めていました。当大学免疫学教室の宇髙らは、特に強いCTLsを誘導しやすい新規のWT1ペプチド(WT1-W10)を同定、合成することに成功しました。このペプチドのもう一つの長所は、抗原認識に必要なHLA型の合致する割合が日本人の8割以上と、従来のペプチドに比べて適応患者が大幅に広がったことです。さらに、ペプチドワクチンの接種のアジュバントとして、「百日咳菌体成分」を用いることで、ワクチン効果が増幅することも証明され、これらを含めた固形癌への第I相臨床試験は07年からすでに当大学で行い、安全性が確認されています。
現在の標準治療にて効果が頭打ちになった「悪性神経膠腫」に対して、また現在の標準治療でも「根治」という状態にはならないのが現実ですから、最初の標準治療の時から、この「WT1-W10ペプチドワクチン療法」を併用するというのが、今回の臨床試験です 。