分子生物学教室

研究内容

(坂本)細胞の分化及び生存に関与するRNA代謝機構の解明

 これまでに、二本鎖RNA結合蛋白質(double-stranded RNA binding proteins:DRBPs)15種類以上が見出だされており、転写、翻訳、mRNA輸送、mRNA安定化、RNA編集、microRNA(miRNA)生合成等に関与することが報告されている (Saunders et al. FASEB J 2003)DRBPsはその構造上に65-68残基以上からなる二本鎖RNA結合ドメインを有しており、この構造と二本鎖の核酸とが結合することが知られている。DRBPsは二本鎖核酸と結合することで、結合した核酸が関与する上記の細胞内イベントを制御し、老化やがん化といった様々な生命現象に影響を及ぼすことが報告されている (Tominaga-Yamanaka et al. Aging 2012, Hu et al. Oncogene 2012)
 DRBPs
のひとつであるNuclear Factor 90 (NF90)は、その構造上に2つの二本鎖RNA結合ドメインを有し、主に核に局在することが分かっている。 我々はこれまでに、過剰発現したNF90と結合パートナーであるNF45との複合体 (NF90-NF45) が、miRNAの生合成を負に制御することを見出した (図1) (Sakamoto et al. MCB 2009)


 
 miRNA
21-24塩基からなる小分子の非翻訳RNAで、相補的、一部相補的なmRNAの翻訳を抑制する。この機能を通じて、miRNAは細胞の分化、増殖、アポトーシス等に関与することが分かっており、発生や免疫調節等の生体制御で重要な役割を果たす。また、がん、心疾患、ウイルス性感染症、代謝性疾患等、様々な疾患発症との関係も見出されている。
 miRNA
の生合成に関しては以下のことが明らかとなっている。miRNAの初期転写産物 (pri-miRNA) Drosha/DGCR8からなるマイクロプロセッサーにより前駆体miRNA (pre-miRNA) へプロセッシングされる。pre-miRNAは細胞質に輸送された後、さらにプロセッシングを受け、成熟型miRNAとなる。
 
我々は、NF90-NF45pri-miRNAに結合すると、マイクロプロセッサーがpri-miRNAへ接近できずに、miRNAの生合成を抑制することを見出した (図1) (Sakamoto et al. MCB. 2009)
 この知見をもとに我々は、NF90-NF45miRNAの生合成制御を介して、miRNAが関与する様々な生体制御や疾患発症に影響を及ぼしているのではないかと想定し、その検証を進めている。

1.細胞腫瘍化に関与する新たなマイクロRNA産生制御機構
2.マイクロRNAの生合成制御を介した新たな筋成熟機構