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研究

術後認知機能障害の分子機序解明と周術期予防戦略

急速な高齢化社会の進行に伴い, 高齢者の手術が増加する一方で, 術後の認知機能に対する問題が明らかとなり, 注目されています (Lancet 1998; 351:857-861)。術後認知機能障害 (POCD) の発症は, 退院後のQOL低下や就労困難のみならず, 死亡率増加にも関連する (Anesthesiology 110:548-55, 2009)。POCDの危険因子は, 高齢であることが一貫して報告されていますが, 詳細な発症機序は明らかでなく, 現時点において特異的な予防方法も存在しません。

近年, 海馬の炎症反応, 特にサイトカインと認知機能の関係が明らかになりつつあります (PNAS 2010;107:20595-6)。実際, アルツハイマー病等の神経変性疾患では, 炎症性サイトカインの増加と認知障害の重症度が相関することが知られています。電気生理学的には, 炎症性サイトカイン (TNFα, IL-1β) は, 記憶形成過程の海馬長期増幅 (LTP) を抑制します。われわれの研究グループの予備的研究でも, 高齢ラットにリポ多糖の急性投与することで, 遷延する海馬サイトカインの増加とそれに相関する認知機能障害が生じる現象を確認しました (図1)。さらに, 多くの研究で実験的手術後に中枢神経系のサイトカインの増加が生じており, POCDの病態機序に中枢炎症が重要な役割を果たすと推測されています。したがって, 中枢神経系を標的とした抗炎症?サイトカイン治療が各種認知機能障害に有効である可能性が考えられます。最近われわれは, 術前身体?認知活動介入が加齢に伴う神経炎症性の亢進を抑制して, POCDの発症を予防する可能性を報告しました (図 2, Anesthesiology, 2015)。高齢手術患者に対する術前身体?認知活動介入は, 副作用が少ない非薬物介入で, 周術期管理チームの構築により, 臨床への応用性がさらに高まることが期待されます。このように, われわれの研究の目的は, POCDの発症機序における加齢性の海馬機能脆弱化と術後神経炎症の関連性を明らかにすることです。また, これら病態に基づく予防戦略を, 臨床データを踏まえつつ検討することにより, POCDの新たな予防戦略に繋げることです。

<主な学会発表>

招請講演: 横山 正尚. 高齢化と術後認知機能障害.日本臨床麻酔学会第35回大会. 横浜.2015.10.21-23

招請講演: T Kawano. Postoperative cognitive dysfunction - Preclinical highlights and perspectives on preventive strategies. East Asian Society of Anesthesiologists Academic Symposium, 2015.9.10-13, Xi’an, China

最優秀演題賞: 立岩 浩規, 河野 崇, 角野 貴應, 山中 大樹, Locatelli Fabricio, 横山 正尚.術後認知機能障害の病態機序に及ぼす神経系シグナルの役割. 日本麻酔科学会 中国?四国支部第52回学術集会. 2015. 9. 5. 岡山

最優秀演題賞: 岩田英樹, 河野 崇, 田村貴彦, 中村 龍, 横山 正尚. 鎮痛方法の違いが 術後認知機能障害に及ぼす影響. 日本区域麻酔学会第 1 回学術集会. 2014.4.25-26. 岡山

最優秀演題賞: 井守聡子, 河野 崇, 森川彰大, 脇彩也香, 高橋哲也, 横山正尚. 術後認知 機能障害に対するプレガバリンの有効性. 日本麻酔科学会 第 61 回学術集会 2014. 5. 15-17. 横浜

<主な論文発表>

Kawano T, Eguchi S, Iwata H, Tamura T, Kumagai N, Yokoyama M. Impact of Preoperative Environmental Enrichment on Prevention of Development of Cognitive Impairment following Abdominal Surgery in a Rat Model. Anesthesiology, 2015, Vol.123, 160-170.

→ Editorial View: Prehabilitation for Prevention of Postoperative Cognitive Dysfunction? (http://anesthesiology.pubs.asahq.org/article.aspx?articleid=2298035)

Kawano T, Takahashi T, Iwata H, Morikawa A, Imori S, Waki S, Tamura T, Yamazaki F, Eguchi S, Kumagai N, Yokoyama M. Effects of ketoprofen for prevention of postoperative cognitive dysfunction in aged rats. J Anesth. 2014 Dec;28(6):932-6.

Kawano T, Morikawa A, Imori S, Waki S, Tamura T, Yamanaka D, Yamazaki F, Yokoyama M. Preventive effects of multisensory rehabilitation on development of cognitive dysfunction following systemic inflammation in aged rats. J Anesth. 2014 Oct;28(5):780-4.

Chi H, Kawano T, Tamura T, Iwata H, Takahashi Y, Eguchi S, Yamazaki F, Kumagai N, Yokoyama M. Postoperative pain impairs subsequent performance on a spatial memory task via effects on N-methyl-D-aspartate receptor in aged rats. Life Sci. 2013 Dec 18;93(25-26):986-93.

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