書評
紹介 『理想』「男女共同参画」特集、第695号、2015年
日本の学術界における男女共同参画は、2002年に理系の学会を中心に発足した男女共同参画学協会連絡会が大きな成果をあげてきた。そこで人文社会科学分野においても、理系分野に負けじと、人文社会科学系諸学会における男女共同参画連絡会設立準備会を2012年に呼びかけたのは、日本哲学会の男女共同参画・若手研究者支援ワーキンググループのメンバーであった。というのは、哲学分野は特に女性研究者が少なく、男女を問わず若手研究者の育成は哲学分野にとって喫緊の課題であったからだ。『理想』「男女共同参画」特集は、この日本哲学会の男女共同参画・若手研究者支援ワーキンググループが開催したワークショップの内容を中心に掲載されている。
哲学は真理を探究する学問であり、「知りたい!」という知の営みは男女に関わらず開かれたものでなければならないはずである。しかし、哲学史を研究すると分かるのは、古代の哲学者から中世、近代に至るまで様々な形を変えて、精神/身体、国家/家族、理性/感性という枠組が、男性/女性に割りふられてきたことである。女子学生が哲学をしようと思うと、まず「女性は感性的だから哲学に向いていない」という偏見にぶつかる。女性は常にこの偏見を意識して哲学研究することになり、女性である自分が哲学する意味に悩む。社会に開かれた学問としての哲学は、そもそも、男女における公正とは何か、そして性差に関わらず哲学の営みをするには、どのような態度表明と思索が必要かを問わなければならない。
現代社会や学術界において女性がおかれている状況を見定め、哲学は真の公正性を達成するために何ができるのか。この特集号では、まず女性研究者のおかれているミソジニー(女性嫌い)を哲学的に分析する。さらに、gender equalityの意味を問い直すことや、月経や生殖といった女性の身体性を哲学的に語ることを通じて、哲学が今後問い直さなければならない課題を提起する。
小島 優子(安全・安心機構 准教授)
『理想』「男女共同参画」特集、第695号、2015年 目次
- 哲学とミソジニーの構造 ー「女性であること」をめぐって ー / 小島優子
- “gender equality”と「男女共同参画」の間を読み解く
―語ることの難しさと哲学的視点― / 岡本由起子 - 説得の技法―gender equalityの実現可能性を巡って― / 和泉ちえ
- アファーマティブ・アクションの哲学―<男女共同参画>の規範的論拠をめぐって― / 池田喬
- 男女共同参画と若手研究者支援―男性研究者の視点から― / 小手川正二郎
- 「哲学・思想系」学部大学院男女構成比調査から見えてきたもの
―「私立大学博士課程 ギャップ」を中心にして― / 金澤修 - 哲学、女、映画、そして… / 今村純子
- 月経について語ることの困難
―身体についての通念が女性の社会参画にもたらす問題点― / 宮原優 - 生殖の「身体性」の共有―男女の境界の曖昧さ― / 中真生
- フェミニスト現象学とその応用―つながりの「知」への展開― / 稲原美苗
- フェミニスト現象学から考える男女共同参画 / 齋藤瞳
- 「男らしさ/女らしさ」とナラティヴとしての生物学的本質主義
―男女共同参画の困難の 根元を考える― / 筒井晴香 - 宇宙開発業界における男女共同参画を通して考える多様性と一様性について / 石崎恵子